四姉妹からの手紙

2人の物書きの往復書簡です

わたしは誰かに与えられたもので更新されていく ── カガワヨリ

ひさびさに出張というものをした。自分の時間はなく、朝早くから夜遅くまで連日、決められたスケジュールのなか。これはこれで新鮮だし、「あーコロナの状況が変わったんだなぁ」という感覚もあった。 1000人未満の集落へ。山道を数時間。数百年も続くお祭り…

どうせ死ぬから抹茶クッキー  ── 雅季子

まあ栄養素は偏るしおなかもすくし、栄養を不足させることによってリカバリをかけていく民間療法というか、そういう自分を自覚するためにやるので、無理そうだなと思う気持ちが強いときはやらない方がいい。ものには時期がある。私も、長年の友人がこの節制…

5000歩のその先 ── カガワヨリ

10年ぶりくらいの激しさで声を荒げてしまった。 感情をコントロールできなかったとはいえ、あまりに極端に振りきってしまうともう反省などはなく、「こんなに爆発するまでなってしまったのはさすがに周りが悪い」とさえ思う。そう開き直りながら、心のすきま…

制限の日々  ── 雅季子

四季と死期。良く映える対比だ。ついでに士気を高めて指揮を執り私記を書くこともできる。月経は毎月おとずれる死じゃないのかしら。一度死ぬとも、また生まれ直すとも考えていいけれどここ数年は、自分から新しい命が生まれる想像をすることがなくなった。…

あなたからは金木犀の香りがする ── カガワヨリ

金木犀は自然に生えない。人の手によって植えられ、増やされてきた。金木犀は自分で増えることができないから、香りで人間を惑わし増やさせたのかもしれない。という話をTwitterで見かけて、それは人間のことだと思った。なにかに寄生して、美しいようなフリ…

最初と最後に選ぶもの ── 雅季子

まあそうだ。物書きでいたいか、とか、あなたは物書きとして生まれたのか、と問われて、ふたつの問いは根源的に異なるけれど、いずれにしてもイエスと答えるようなやつはとりあえず疑ってかかったほうがいい。でも、あなたが友達をなくし仕事をなくし家をな…

渡り鳥の欲望は──カガワヨリ

物書きでいたいのか、というと自信を持ってそうだとは言えないなぁと、ぼんやり歩きながら思った。物を書くことは、私にとって走ることに似ている。べつに歩いてたってどこにでも行けるし誰かに会いにも行けるけれど、走った方がすぐに行けるしすぐに会える…

日々の墓標 ── 雅季子

書くべきものに追われているときは、締め切りのある原稿よりも、自由意志で書くものを、ほんの少しの量でいいから先に書いた方がいいんだと思う。そうでないと、請われたものしか外に出せなくなる。なんだっけなあ、いつかこの日記でも「聞かれてないからそ…

灰色のコンクリートの合間に光る ── カガワヨリ

交換日記も半月あいだが空くと、自分と自分がかつて書いたものがつながらなくなって参る。 と、まさにあなたが言ったようなことと同じく。この半月にいろんなことがあってブログもかけず、この半年になにがあったのかもうきちんと思い出せない。整理して思い…

遠い人ならあきらめがつく ── 雅季子

交換日記も半月あいだが空くと、自分と自分がかつて書いたものがつながらなくなって参る。すっかり細胞の入れ替わる速度も早まってしまって、それなのに人間の寿命だけは伸びてるなんていやだこと。こんな感覚であれやこれやに火を立てて80歳まで、1億人みん…

オンラインのあなたへ ── カガワヨリ

よしながふみの漫画だったか、誰かの小説だったかある男性と女性がバーだかで出会い、意気投合して、女性の方も「この人だったら……いいかな?」なんて思って店を出ようと立ち上がった時、男性の身長がとても低いことに気づく。あきらかに怪我か病気が原因で…

余白こそ ── 雅季子

イタリアの友だちと話したっていうことを前回は書いたけど、来週は、オーストリアのウイーンに住む友だちとzoomで話すことになった。実際にはもう4年ぐらい会っていないけどたぶん大丈夫。オンラインで関係性を維持していれば、再会してもすぐにじゅうぶん新…

忘れることにまつわるいくつかのこと ── カガワヨリ

2回目のワクチンを打った。いまその待機室でこの文章を打っている。大きなモニターには毛並みのいい猫のお尻のアナが大写しになっていて、振り込め詐欺の注意喚起がされている。なんで猫なのかはよくわからないけれど可愛いので見ちゃう。見ちゃうから、猫…

質量との激闘 ── 雅季子

羊雲、綺麗ね。このあたりでは金木犀が咲き始めている。今年は香りより先にオレンジの花がまばらに開きつつあるのが目に入って、それで気づいた。マスクのせいもあって香りを感じにくい。もっと言えば、香りを感じ取れないことで季節との距離を見積もりそこ…

目もくれずに「好き」と言えること ── カガワヨリ

あまりにも慌ただしい数日が過ぎた。追い立てられるように駆け抜けていると、ふと突然、電源が抜かれたようにプツンと立ち止まってしまうことがある。打合せに向かっているとちゅう、プツンとなにも考えられなくなって、ただ「糖分……糖分……」とつぶやきなが…

偏屈な女の質疑応答 ── 雅季子

斜め読みはしなかったけれど忘れはするかもしれない。でも忘れたらまた読めばいいのだ。そのために私たちはここに日記を書き残しているのだから。 主観と客観という言葉の意味がわからない。カガワヨリが言わんとしていることはわかるけれど主観と客観に翻弄…

読み飛ばしてくれていいよ、忘れてくれても ── カガワヨリ

あらためて、人って全然違うんだなと噛み締めている。 わたしはすぐ「忘れる」。書いたことも忘れ、なんならふと読み返しても「これわたしが書いたんだっけ?」と首をひねることもある。もう20年前の恋人に「あれ、わたしと付き合ってたっけ?」としばらく思…

覚えていることと忘れることの比較検討 ── 雅季子

コーンフレークを切らしたのでフルーツグラノーラを食べている。ヨーグルトに乗せて食べるという思い込みがあったのでわざわざ牛乳のかわりにヨーグルトを買い、混ぜて食べているが、食べながらパッケージを見たら「牛乳200mlをかけた場合」の栄養価が書いて…

楽しまないことを楽しむ深遠 ── カガワヨリ

現在はいやおうなく過去へ流れ去ってしまうね。押入れの奥で深く眠っていたダンボール。そのなかに詰まった薄いA4ノートの束。あるいはもうログインIDすら忘れてしまったブログ。そこにある文字、大量の文字たちは、ものすごい密度と重量と湿り気をともなっ…

己の老獪さを自覚し嫌悪する ── 雅季子

女がいやいやながらも何かに付き合ってくれるのは、ちゃんとその相手をいとしいとか可愛いと思っているからだが、男が嫌そうな態度を見せるときは本当に嫌だという意味で、それはもちろん見る側には透けて見えている。そのかわり、男が嬉しそうな顔をすると…

たった4文字の返信 ── カガワヨリ

10年ほど前に付き合っていた人が、とつぜん夜中に長文のメールを送ってくる人だった。思いのたけを込めたのか、あふれる感情を持て余したのか、昔の友達との思い出や、追っていた夢や、夢破れた苦しみをほかのものに置き換えることでなんとか自分を保とうと…

ほとんど友達などいない ── 雅季子

交換日記に誘われるような子ではなかった。やりたいと思っていたとは思う。でもその「書きたい感じ」の自意識がたぶん、初等科時代の同級生の感覚とはちょっとあわなくて、そのあわなさを同級生も感じ取っていて、卒業式のときのサイン帳とかもあまり頼まれ…

往復書簡、はじめましょう ── カガワヨリ

外国から絵葉書が1枚、ポストに届くことに憧れていたことがありました。長い手紙じゃなくていい。ただ一言、「こちらの食事はボリューミーで太りそう!」とかでいい。わたしのためにハガキを選んで、わたしの住んでいる場所を思いながら住所を書いて、わた…