四姉妹からの手紙

2人の物書きの往復書簡です

どうせ死ぬから抹茶クッキー  ── 雅季子

まあ栄養素は偏るしおなかもすくし、栄養を不足させることによってリカバリをかけていく民間療法というか、そういう自分を自覚するためにやるので、無理そうだなと思う気持ちが強いときはやらない方がいい。ものには時期がある。私も、長年の友人がこの節制プログラムをやっているのを知ったのは4年くらい前で、そのときは私はすごいヘビースモーカーだったし煙草も煙草もコーヒーも紅茶もだめなんて絶対無理! と思ったから横目に見るだけだった。煙草をやめて二年四か月が経ち、なんとなく今かなと思ったのでやってみただけ。

 

事前準備として冷蔵庫の食材を一週間以上かけて全部使い切り、空っぽにして臨んだのだけどその過程は楽しかった。十日間は今日で終わりで、辛い期間がほとんどだったけれど、梅干しの味が強く感じられすぎるようになって最後の二日は玄米と塩しか食べずに済んだ。普通の食事ではどんなにがんばっても落とせなかった境地に体重が落ち、ひとまわりすっきりした。しばらく舌は荒れたけれど、八日目を過ぎた朝、急に肌が内側から白く光っているような気がしてびっくりした。まあでも、それくらいだよ。たぶん、十日の間もバレエクラスを休まなかったのが良かったんだと思うけど。明日からは回復食といって、何も入れない味噌汁を食事に足すところから三日かけて生活を戻していく。小学生みたいに、献立表を書いてスーパーマーケットに買い物に行くのを楽しみにしている。

 

そうね、不調。……体の不調ね。私は不思議だけど、禁煙したせいもあるのか、今がいちばん、毎年若返っている気がする。3~4年前が「どん底」の「ピーク」……って深いのか高いのかどっちかわからなくておかしくない? って考える余裕があるくらいには今はすこやか。

 

ただ心が身の回りの陳腐さに耐えられないということはある。若さに任せて居場所を飛び出せるような年齢では確かにないからね。いちばん怒りと軽蔑を燃やしてしまう相手には、何か言うと外堀を埋められて脅しのようなことをされるだろうと思うので、私の感情はもう出せない。ここに少し書くぐらい。でも今のところはそれで済んでいる。今すぐ落とし前つけなくてもいいかなって。年取って気が長くなったのかもしれないわね、焦ってもどうせいつか終わるから、って。

 

去年京都に行ったとき「どうせ死ぬのにおみやげなんか(東京に)買いたくない」と友人の前でぼやいたら「どうせ死ぬからおみやげ買うのよ!」と抹茶チョコレートサンドクッキーの箱を持たされたのを思い出した。抹茶もチョコレートも、しばらく食べていないことを思い出して、今さら急にあのクッキーが恋しくなっている。