あなたからは金木犀の香りがする ── カガワヨリ
金木犀は自然に生えない。人の手によって植えられ、増やされてきた。金木犀は自分で増えることができないから、香りで人間を惑わし増やさせたのかもしれない。という話をTwitterで見かけて、それは人間のことだと思った。なにかに寄生して、美しいようなフリをして繁殖していく。その醜さゆえに美しい。
一人ではどうしようもできなくて、死んでしまったらなにもかも終わりじゃないかという暗闇にとらわれ、なんとか誰かや何かに影響を与えてもらいながら生を消費している。「生きてるって最高!」というフリをしながら。
そんなもんだから、もし私に友達がなくなり、仕事がなくなり、家がなくなり、体も心もそこなわれたら、どうなるのか。皆目検討がつかない。なにかを書きたいと思うんだろか。いや。なんかもういろいろやる気がなくなって生活保護に頼りまくって屍のように虚ろになるかもしれないな。うまいこと刑務所に入れるような人を殺さない犯罪がおかせないかと小狡いことを考えるかもしれない。いやでもやっぱり、どこかの路上で生きながらえながら、チラシの切れ端の裏にインクの少ないボールペンでなにかを書き連ねるのかも。そんな気もする。
だから、なんの自信か「これがわたしの大切なものだ」言い切れる人に会うと、感嘆してしまう。憧れとかじゃかなく、ただ素直に「わーお」とその眩しさに見入ってしまう。わたしはきっと、迷うから。自分の一番芯に残るものなんてわからない。
ああ、金木犀の香りがかぎたいな。
甘ったるい橙色の香りは、ふわっと季節の移り変わりを知らせてくれる。忘れていた四季にハッとする。
書くこともそれに近いかもしれない。つらつらと文字を連ねていると、行間からふわっと甘美な匂いが立ちのぼる。生きている感覚が、そこに。そして忘れていた死期にハッとする。
その恐ろしさを追い払おうと、さらに書く。
目を背けるため私はフリをするのだ。
生きてるって最高!
……生理痛で眠れぬ夜長に。
(これって生の痛みだよね?)
カガワヨリ